ビワマス釣り 100+の疑問

琵琶湖雑論




−古の漁法−

人々とのかかわりが太古の昔から続く琵琶湖には、古来からの独特の漁法以外にも様々な漁法が現在でも行われている。

代表的なものに「簗(やな)」「えり」「沖曳き網」「沖すくい網」「追いさで網」「貝曳き網」「刺し網」などの漁法がある。

「やな」は琵琶湖に流入する川に遡上する鮎を、川に設置した構造物であり一箇所に誘導して捕獲する漁法。

簗漁は日本各地の川でも行われており、久慈川、那珂川、五ヶ瀬川の簗が有名である。 仕掛けである構造物には各地ノウハウの違いがあるが、竹や木を並べて作った川の関所みたいなもので、千歳川のインディアン水車もこのグループに入るのであろう。

「えり」は湖に設置された小型定置網であるが、琵琶湖以外の淡水湖には殆ど見られず、一説によると3世紀に中国東北部から伝わったとする話もある位の太古の漁法だ。 鮎、鮒を主に対象として、岸から沖に向かった矢の形に網を設置して、魚を一箇所に誘導して捕獲する。

「沖曳き網」はお馴染みの地曳きの逆、岸の上で網を曳くのではなく沖で船で曳く漁法。 モロコ、ヨシノボリ、エビ、イサザ、アユを獲る。

「沖すくい網」は初夏に湖面に大きな塊となって群れる鮎を、船の上に築き上げたやぐらから見つけて、船首に仕掛けた大きな網でどっこいしょと下からすくい上げる漁法だ。 これを初めて見たときにはなんて豪快な漁だと思ったものだ。

「追いさで漁」は春に岸寄りに群れている鮎を、網を持つ受け手の方へ棒で追い込んで捕獲する漁法だ。 その棒の先にはカラスなどの鳥の羽を付けているとのことで、きっと動力船の無い大昔から行われていた漁法なのであろう。

「貝曳き網」は網の口に鉄枠の付いた袋状の網を船で湖底を引きずって蜆を獲る漁法だ。

「刺し網」は水中にカーテンのように網を張って、回遊してくるビワマス、鮎、鮒を獲る漁法である。

さてレイクトローラー、和名でいえば引き縄釣り漁従事者にとって、もっとも関係あるのがこの刺し網漁である。

聞くところによると、この刺し網は一枚が幅2メートル長さ20メートルぐらいあるそうで、これが何枚も横につなげられて数百メートルも水中に設置されている。 刺し網は通常湖面から15メートルから20メートルの深さにあるが、その水深は湖の透明度に関係があるようで、透明度が高いと深くなるみたいだ。 この刺し網の水深が釣師が言うところのタナに当る。 もっと端的にいえばビワマスの遊泳層である。

刺し網の保守で潜水した漁師の話だと、ある水深を超えて潜ると突然ぞぞっと来るくらい冷たくなる水の境目があって、どういう訳かその辺は濁っていたという。 高性能な魚探に水温躍層が映るのは、この性質の違う水層の境目にプランクトンや小さなゴミが溜まりやすく、これに超音波が反射してその存在を映し出していると読んだことがあるが、それを裏付ける貴重な証言だ。

また琵琶湖には固有の水の流れ(湖流)があって、湖北では凡そ48時間で反対時計回りで流れているのが観測で分かっており、この湖流を第一還流という。 ビワマスたちはこの流れに乗って回遊してくるわけだが、効率性を考えると流れに正対する位置に刺し網を入れるのが最善である。

しかし現実には強い流れがあるため、刺し網がたわんだり流されてしまうので、実際には流れに対して多少斜めに入れられているそうだ。 つまり刺し網をどこにどの角度で何ぼの深さで張るかが、その漁師の力量となるわけだ。

刺し網の設置方法は、連結した刺し網の帯の両端に頑丈なブイが沈められており、これに結び付けられている。 この屋台骨であるブイには黒旗が掲げられている。 しかし200メートルもの帯を下方向にたるませないために、黒旗と黒旗の間には長い帯の上辺に結び付けられた小さい発泡スチロールのウキが、ずらぁっと数珠繋ぎで並んでいる。

つまり白ブイの並ぶ下には刺し網が入っていることになる。 逆に黒旗と黒旗の間で白ブイが無いところは、刺し網が張られていないことを意味している。 つまりこれは船舶免許の法規試験ではないが、「黒黒OK」「黒白・白白OUT」と覚えておくと琵琶湖の引き縄釣りには役に立つ。

刺し網の管理は結構大変らしくで、毎日揚げてチェックしなければならない。 三日も放置しておくと網目に藻が繁殖しだして、水揚げ量ががくっと落ちるそうだ。 ビワマスにはそれが見えて障害物と分かって回避するようだ。


さてこれだけ大掛かりな漁具を設置して、肝心のビワマスの水揚げ漁はいかほどのものなのであろうか? 年間漁獲高が20トン程度であるが、釣り鈎で獲っているケースは皆無のはずなので、ほとんど全てが刺し網によるものである。

捕獲されるビワマスの平均重量を1キロと仮定すると、単純計算で2万匹となる。 日曜・祝日と禁漁期間2ヶ月は漁師さんはお休みとすれば、年間操業日は約240日。 すると1日80本程度の計算になる。 まぁだいたい全琵琶湖で1日80本が水揚げされると推測される。

琵琶湖全体で黒旗の一対セットが何セット仕込まれているかは知らないが、10枚張りが広い北湖に10セットしかないとこれまた勝手に仮定すると、1セット8本となるから1枚で2本も掛からないことになる。

で実際のところ漁師に訊いてみたら、1セットだったか1枚だかは呑みながらの会話だったのであやふやだが、掛かって5、6本がいいところだよといわれた記憶がある。 これを多いと見るか少ないと見るかは感じ方の違いだろうが、これを聞いたときの第一印象は、そんなものぐらいしか獲れないのかと思ったものである。

ただ後日別から聞いたのだが、月夜だったか新月だったかは忘れてしまったが、伝説の大波「ビックウェンズデー」みたいな一夜があって、勿論それはめったにないのだが、その時は網が上がらないくらい獲れることもある話も聞いた。


−新しい漁法−


さて2006年より本格的・継続的なレイクトローリングによる漁法が、数名のレイクトローラー有志によって試験操業されるにあたり、最初はそんなもんでビワマスが釣れるわけないやろと奇異な目で見ていた地元の漁師たちが、連日の水揚げ量を見るにつけて、少なくとも既存の刺し網漁なんかよりはずっと効率的であると驚いたのは間違いないと思う。 でなければ玄人がお金掛けてまで、アマチュアの真似をするわけがないからである。

もちろん2006年以前から琵琶湖でトローリングを実釣していた先駆的な釣人たちは少数であるが居たのに間違いないが、ここまで具体的な釣法を確立したのは、知る限りやはり2006年からだと思う。

漁師から見て水揚げが上がることはもちろん嬉しいが、それ以上に釣り物であることに経済的価値が高いのだと思う。 北海道には有名なホッケというアイナメに似た魚があるが、釣ったホッケは「釣りホッケ」と呼ばれ、通常の網で巻き上げられたホッケとはお値段もお味もぜんぜん違う。

ホッケというと東京あたりの人は、安い居酒屋のでかいだけの不味い開きだと思っているかもしれないが、本場の北海道の市場では脂のよく乗った釣りホッケは1枚千円もする高級魚だ。

それと同じでビワマスの卸値は刺し網物がキロ2500円に対して、釣り物は3500円もするそうだ。 なぜそうなるかというと、釣り物の方が鮮度も味も上だからである。

刺し網に掛かったビワマスは網に絡みながらゆっくり死んでいき、死んだ血が全身に回って自己消化で味が落ちてしまう。 しかも季節によっては水温がぬるくて翌日の網上げの時には、魚体表面が白く変色してしまっていることもあるそうだ。 そんなことは海でタイやヒラメなどの高級魚を釣っている釣師にとっては、釣ってその場でしめずきりっと冷やさないで放置していたらどうなるかは当たり前のことだろう。

実は6月に捌くのに疲れて船の生簀に50オーバー2本を生きたまま一晩置いていたら、翌朝白くなって死んでいた。 通水口も空いていたので一晩ぐらいは大丈夫だろうと思っていたがダメであった。 慌てて捌いたが腹骨が腹身からもう剥がれていた。 それくらい鮮度の落ちは早いのである。

ところが釣り物だと当たり前の話、釣ったその場でしめられるし氷水のクーラーに直ちに保管もできるから、その鮮度維持は比較にもならないだろう。 つまり新釣法によって水揚げ量も上がり販売単価も上がれば、そりゃマジに西洋式引き縄釣り漁に業種転換するだろう。

しかもそもそもビワマスを狙って釣っている職漁者は今まで皆無だそうなので、ここで確実に釣れる道具と方法を手に入れれば、実際目の前でアマチュアに開いた口がふさがらないほど釣られているわけだから尚更のことだろう。


−ビワマスは幻の魚か?−

ビワマスを語るときのお約束の枕詞は、「幻の魚」である。

幻といわれるとレッドデータブックが思いつくが、ビワマスはどのような分類となっているのだろうか? 環境省レッドデータブックでは「準絶滅危惧」、水産庁では「希少種」に指定され、滋賀県版レッドリストでは「要注目種」とされているそうだ。 少なくとも書面の上ではたくさん生息しているとはいえない希少な種類であることは間違いようだ。

だからといって全く水揚げされず、市場にも一切流通していない幻の魚というとそうでもない。

ビワマスの資源管理にいては、滋賀県が稚魚放流の事業を毎年行っており、遡上産卵時期の二ヶ月間は禁漁としている。 その公的な活動のお陰で年間20トン程度の水揚げが実際にあり、どうやら滋賀県内の一部で取引されているそうだ。

だから思うに幻といわれるのは、生息数が少ないというより広く多く市場流通していないので、一般の人特に県外の人がなかなか見ることがないので、たまに料理屋なんかでメニューに出ていると、有り難味を出すセールスアピールも加わって「幻の魚ビワマス」入荷しました」となるのだろう。


でまたふと思ったのだが、従来殆ど全てが刺し網漁で揚げられた網物であるならば、網を上げたときに既に死んでしまって白く変色してしまった昨日のビワマスは、どう処理されているのだろうか?

あまりにも幻だからそのまま市場に流通するのか、売り物にならないから自宅で食べてしまうのか、それとも廃棄してしまうのか…不思議に思ってしまったりする。

ビワマスの食べ方は、そりゃ幻なので一般受け的には刺身が一番ありがたいし美味しく感じると思うが、自分の歳にもよるのか、45センチ以上のビワマスだと脂が強く濃厚な食味だと感じる。 勿論美味しいのには間違いないのだが、40センチを欠けるぐらいのサイズの方が、脂も適度に少なくてさっぱりした食味なので、小ぶりの方が美味いと思う。

ただ地元の料理屋の女将の話だと、産卵前の脂が乗った1キロぐらいのが、刺身にした見栄えもよく味も一番良いとはいっていた。 店に出すビワマスは地元の漁師から仕入れるのだが、いつも刺し網に掛かっているわけではなく仕入が出来ない日もあるとはいっていた。 これからもそんなに刺し網にバカスカ掛かるものではないようである。

料理屋では刺身にされることが一番多いが、自宅なんかで食べるのには刺身以外には、昔からフライとか煮付けにすると美味しいそうだ。 実際自分もフライにしてみたら柔らかく味の良い鮭フライみたいであった。

料理屋だと腹を抜いて煮付けにするらしいが、新鮮であれば自宅では腹のまま煮付けたりしてもよいそうだ。

男の趣味で料理好きであれば、特性ソミュールに漬けてスモークとか、コブ締めやズケにしてもとても美味しい。 好き嫌いがあるかもしれないが、筋子の醤油漬けも熱々ご飯にかなりいけると思う。 また意外なところで石狩鍋も美味しいと聞いた。 しかも中骨やお頭は翌日に三平汁にもできてしまう。塩水に漬けて冷蔵庫で乾燥させた切り身を焼いてほぐして炒飯の具にしたら、これも美味かった。 元が美味しい魚だから何にしても美味しく料理できてしまうようだ。


−ヨコエビの秘密−

で、ふと思ったのは何で湖の淡水魚なのに、海の魚でもないのに、こんなに美味しいのか?と。

淡水魚は普通食通にいわせると、上魚といって鮎・桜鱒・姫鱒の3種類を挙げるそうだ。 それ以外は泥臭くて食べられたモンではないようなことを聞く。 例えば子どものころ自宅の裏に鯉の釣堀があって、釣った鯉をそこで鯉こくとか鯉鍋に料理してもらって食べたことが何回かあるが、たしかに子ども心に土臭い思い出が今でもある。 酢味噌はそうでもしないと食べられないからだとも思っていた。

ところが琵琶湖の料理屋で出てきたなんかの刺身を、何気なくばくと食べたらこりこりして美味い!ヒラマサか?と一瞬思ったが、こんな所に海の魚なんて出てくるはずがないと思い直して、店の人に訊いてみると、ここで獲れた鯉ですと返ってきた。 まったく臭みもなく歯ごたえがこりこりして、美味い美味いと食べてしまった。 鯉は臭いものと思っていた自分の常識が砕け散った瞬間だった。 店の人に言わせると、琵琶湖のここらは水がきれいだから泥臭くないのですとのことだ。


さて桜鱒の親戚に中禅寺湖のホンマスてのがいて、これは大昔の養殖の資料を読み解くと、北海道から移植された桜鱒と琵琶湖から移植されたビワマスが、当初つまり明治のころは明確に区別されることなく混在して養殖されたことから交配が進んで今のホンマスが生まれた説が有力視されている。

このホンマスは年によって美味い不味いがあって、釣師にいわせると、プランクトンが少なくワカサギが多い年は、その身が白く水ぽいくて美味しくなく、逆にプランクトンが多くワカサギが少ない年は赤身で美味しいという。

またなぜ鮭は赤身で美味しいのか?てテレビの科学番組を見たことがあるが、その時の解説では海で海老やカニの幼生を食べているからだといっていた。 そういえば鯛の養殖でも海老を食べさせるそうだ。 つまり赤身や食味とは単純にプランクトンとか一把一かげらのエサによるものではなくて、海老などの甲殻類がその正体なんではないかと素人想像するわけだ。

で琵琶湖で甲殻類て何よ、そしてそれは海のように大量に生息しているのか?とミステリーの旅が始まるのだ。

6月ボートの中で何本かのビワマスを釣り上げた昼過ぎ、のんびりと流しているとき、何気に足元のタックルボックスに目をやると、干乾びたヨコエビが1匹張り付いていた。この前どっか釣りに行ったときにくっ付いていたものなのかなと思っていた。 なんせ水深70メートルもあるコースを流し続けていたこの釣り場に、ヨコエビがいるわけがないと思い込んでいたわけだ。

ヨコエビとは甲殻類であるが、名前の如くエビの仲間ではない。 陸上にも淡水にも海にも生息していて種類は多いが、研究があまり進んでいなくその生態は詳しいことは知られていない。 大きさは顕微鏡サイズから2センチ程度までであるが、淡水では1センチに満たない5ミリぐらいのサイズが専らである。

このヨコエビは、ダンゴ虫をぺたんと押し潰した形をしており、アルファベットのCを横にしたような黄褐色の体をしている。 名前がエビのくせにハサミらしきものはなく、エビというよりは痩せたノミの化け物みたいな形をしているとも思う。

しかしこのヨコエビは湖のフライフィッシングでは重要な生物であり、マッチ・ザ・ハッチ、マッチ・ザ・ベイトが金科玉条のレイク・フライマンにとっては、外すことができないエサである。 フライの本場であるアメリカの書籍で、湖のフライフィッシングの教科書とも言われる"Lake Fishing for Fly"には、フィッシングに重要な湖のエサとなる水棲動物の一つに、ヨコエビは"Scud"と綴られてイラスト共に詳しく書かれている。

当然これを模したフライがあるわけで、実際ちょくちょく支笏湖で使ってみたがアメマスがよく釣れた。 ただ外国の本に載っているからといって、舶来かぶれで直ちに支笏湖で真似たわけではない。

試しにシャローの湖底の石をひっくり返して見てみると、このヨコエビがぴゅるぴゅると回りながら逃げ惑うのを見て、こりゃ日本でも使えると思ったからだ。 実際にそうであったし本に書いてある英文をおっちらおっちら読んでみても、ヨコエビは湖底の石・岩や沈殿した枯葉の下に隠れて生息しており、魚や虫などの死骸を食べている掃除屋でもあるとあった。

ここで大事なのが、シャローつまり浅場の湖底に居るてことである。 これが10数年前に脳みそに原体験として刷り込まれたのである。

さて話は現在に戻るが、このタックルボックスに張り付いた一匹のヨコエビを見た後、しばらくしてまた何本かのビワマスを揚げて一服していると、足元に今度はフレッシュなヨコエビが何匹も水に濡れて落ちているではないか。

何なのだ、このヨコエビたちは? どこからやって来たんだ? そう不思議に思っていたら、竿が伸されてビワマスがヒットしそいつをボートに揚げた途端、げほっと口から大量のヨコエビが吐き出されたのだった。 正直目を疑った。

ここは水深70メートル級ラインであり、ヨコエビはシャローの石の裏に隠れて細々と生息していると信じているわけだから、ヨコエビが出てくるはずがないと思ったわけだ。

百歩譲って屁理屈をこねると、このビワマスは水深70メートルの湖底まで潜って石をひっくり返してヨコエビをたら腹捕食し、水深10メートルぐらいに流れているこのルアーを発見して60メートルも急速浮上してヒットしたとだ。 視力5.0? しかも補償深度15メートル程度で湖底からルアーが見えているのか? どう考えてもありないだろう。

岸際のシャローでヨコエビを捕食してから湖流を横切りダッシュで数キロ沖のここまでやって来てルアーにヒットしたのか? もっとありえない。

実はヨコエビは沖の中層ではオキアミの如く大量の群となって漂っている…こう考えた方が自然ではないだろうか。 であればこのルアーにヒットする理由も頷けるし、ヒットの特徴的な感触も、このタナのビワマスがヨコエビを大量に吐き出したのも説明が付きやすいのだ。

昔は茶鱒は岸寄りで待ち伏せしているフィッシュイーターと信じられていたが、トローラーにこの話を信じる人はいないだろう。 なぜならば沖のど真ん中でも茶鱒はぜんぜんヒットしてくるからだ。

また放流虹鱒は湾の中の表層に溜まると信仰されていて、フライマンは岸からせっせとキャストしていたし、ボートに乗ってもヘラ師のように岸付けでキャストしていたものだ。 でもトローラーは沖のど真ん中の表層でそいつらを平気で釣ってしまっている。

このような間違った信仰がヨコエビの生態にもあって、産卵の時期だけなのかは分からないが、本当はヨコエビは淡水オキアミとなって沖の深いところで群れて泳いでいるのかもしれない。

でもそうなるとヨコエビの産卵期て何時なの?てなってしまう。 この6月なのか、あるいは水が温む春から晩秋までなのか、いや最近の地球温暖化で水温が下がらないから年がら年中産卵しているのか、いや産卵のためとかではなく単に暗いところだと安心して湧き出て泳いでいるだけなのだろうか?興味が尽きない。

温暖化のことでは最近真冬の水温が下がらないため、垂直循環が力強く起きず、琵琶湖の湖底に近い深水層がかき回されず滞留して分解されず富養化・汚染が進んでいるとの調査報告もある。

ヨコエビの話はまだ続く。

12月の琵琶湖ではエビ籠漁が盛んだそうだが、この時期釣ったビワマスの腹を割いてみると、今度は大量のスジエビが腹一杯に詰まっていた。 胃袋から丁寧に出して広げて観察してみると、ほとんどがスジエビだが、1割弱くらいはやはりヨコエビが混じっていた。

ヨコエビは年中沖の深いところ、光量の乏しいところで漂っているのか?

そしてビワマスは年中ヨコエビを捕食しているのか?
(USの文献だとTroutは一年中Scudを食べているとあるので、これは信憑性高いのでは?)

そもそもスジエビとヨコエビは、スジエビのシーズン中は同じ水域の同じ水深にいるのか?

スジエビとヨコエビが混在していたら、ビワマスはセレクティブにスジエビを捕食しているのか?

沖に居るヨコエビは季節によってその遊泳層の深さが変わるのか?

考え出したら限がないくらい疑問点が沸き出て来る。

ビワマスがヨコエビを捕食していることは間違いないわけだが、仮にヨコエビの遊泳層が水深30メートル級の大深度であった場合は、ビワマスはそこまで平気で落ちていくのか?

その場合はもう西洋式曳き縄釣りでは射程外で無理であろう。

全く釣れないとは思わないが、捕食層から大きく外れたはぐれビワマスを広大な湖で拾っていくのは余りにも効率悪い。 少なくとも職漁としては成立しないだろう。

もちろんやり方は別にあるであろうが、光もなく高い水圧でルアーもろくにアクションしない環境では、振動と臭いぐらいしか訴えるものはなく、疑似餌に拘ると臭いも使えないので、その漁法・漁具には釣師の工夫が不可欠となるはずである。


−豊かな大湖−

ベタ凪の琵琶湖の遥か沖を静に流していたら、ちっょと離れた水面がもこもこと持ち上がり時折バシャとワカサギが跳ねるのが見えた。

こんな沖のど真ん中でバスがワカサギを喰い上げているのかと思っていたら、よくよく目を凝らしてみるとチラッと見える背中がビワマスだった。

後で陸に上がってその話をすると、仲間も違う沖の場所で同じ光景を見たと言っていた。 普通こういうシーンはもっと岸寄りで見られると思うし、教科書だと産卵で接岸してきたワカサギの群を鱒や岩魚が喰い上げるとされているが、つまり岸寄りの光景である。

岸寄りを流したことがないのでよく分からないのだが、ビワマスが接岸するワカサギを喰い上げているシーンは、琵琶湖では頻繁に見られるものだろうか?

岸寄りはエサとなる小型の水生生物が多くトラウトにとっては食卓であるが、一方で漁師・釣師に鳥などのハンターがいるところでもあり、逃げ込むための遮蔽物や十分な深さがないところでもあり、常に危険と隣り合わせでもある。 だから薄暗い朝夕のマズメ時にシャローに入ってくるのだと思う。

もし琵琶湖では岸寄りでこのような喰い上げのシーンが見られないとしたならば、これはたぶんそんな危険を冒してまで岸寄りに出て行く必要がないほどに、ワカサギやヨコエビなどのエサが沖まで豊富な、つまり豊かな湖なのだと思う。

目撃した喰い上げのシーンをさらに観察していると、どうやら一匹のビワマスが喰い上げているのではなく、数匹のビワマスが集団で、ワカサギを水面に追い上げて食っているような感じであった。

昔釣れない本栖湖で水際がバシャバシャと騒いで数匹のベイトが飛び跳ね、1匹の大きなバスがガボ、ガボと喰らい付いていたのは、単独であっても水際であれば追い込んで食べられるからだ。

しかしその琵琶湖のシーンは水深で60メートル以上もあることから、1匹のビワマスが単純にワカサギの群を追い込んでも霧散して喰い上げることはできないだろう。 取り囲んで上に追い上げているはずだ。 これて外洋の大型魚が鰯などの群を取り囲んで食べるシーンと同じだ。 ここは海並みに豊かな湖なのか!?

そんなんで直ぐにワカサギサイズのミノーに嬉々としてチェンジして曳いてみたら、これが期待に反してかすりもしないから摩訶不思議だ。

近くで釣れたビワマスの腹を割いてみても、確かにワカサギが入っているのに、このミノーでのノーピクとの矛盾はどこに原因があるのだろうかとマジで湖上で悩んでしまった。

しかしこれにもちゃんと理由があった。 詳しくは書かないけれど棚が違うんだな、これが。 胃の中にワカサギとヨコエビが混ざっていることに、単純に騙されてはいけないのだね。

「見えバスは釣れない」てバス屋の人は言うけれど、「見えワカサギでは釣れない」てトロ屋も言えるんだね。

でもどちらにしてもここ琵琶湖の豊かさには感謝だ。 なんせこれだけ環境が恵まれていると、いろんな仮説や釣法とかが実釣で結果を伴って試せるからだ。 これは凄いことだと思う。 だってどっかの湖みたいにカスリもしないと確かめようが無く、そこは精神世界へと沈埋没していってしまうからだ。

これだけのピンシャン鱒が釣れる湖が、しかも関西の平場にあるってことだけでも関東人の釣師郎には最初信じられなかったもの。 琵琶湖はバスやろぉ、マスなんておらんわいとね。