Method 7 速曳き
キャスティングの釣りでもリトリーブスピードには、スローやファーストがある。 スローが良い日もあれば、逆にファーストリトリーブしか出ない日もある。 これはちょっとルアーをやった人であれば経験的に理解できる話であろう。
であれば当然レイクトローリングのテクニックの一つにも、このファーストなリトリーブ、つまり速引きのテクニックが取り入れられてもおかしくない訳である。
レイクトローリングにおいては、様々なキモとなる要素があるが、その最大のキモの一つに「トロール・ピッチ」、つまり船速がある。
その日の「当たりルアー」は良く知られた言葉だが、レイクトローリングにはこれに「当たり色数(タナ)」と「当たりスピード(船速)」が、重要なヒットパターンの要素として加えられる。
前者2つは言葉で簡単に伝えることが可能である。 「今日のヒットパターンは、バッセルのナチュラルカラー3グラムで水面下4色だぜ!」とかね。
しかし後者の「船速」は言葉で伝えるのはかなり難しい。 「ちょっと速め」て言われても「??」だよね。 トローラー全員がGPS標準装備とまで電子武装化されていれば、「分速何メートル?」の一言ですむけれど、21世紀初頭のトローラー事情はそこまで進化していない。 まだまだアナログで職人芸の世界である。
そんな訳で実際に速引きのテクニックを使っているトローラーを芦ノ湖でも見ることがあるが、これは旅団の独自の説であることを断った上での話として、速引きは銀山湖や中禅寺湖を拠点とする一部トローラーが開発導入しだしたものと思われる。 またこのテクニックが他の湖にも徐々に広まっているのではないかとも思っている。
こう言う風に書き進めてくると、速引きて最新で有効なテクニックみたいに感じられるかもしれないが、速引きは道具の限界点に近いところで稼動させるため、何故速引きが可能なのかの理屈を知っていないとまずい。 何故ならば必釣ルアーの一つであるフラットフィッシュを速引きしても、まず絶対に釣れないからである。
自分がこれから使うルアーが正常にアクションする限界最高速度を知らなくては、速引きは始まらない。
例えに挙げたフラットフィッシュは低速トロでないと、ルアーが大回転してしまい釣りにならない。 しかもハリスがグテングテンに糸縒れてしまう。 つまり全てのルアーが速引きできる訳ではないのである。
速引きに強いかどうかは実際にボートで引っ張ってみれば良い。 ボートの横で引いてみて目視で確認する。
スプーンであればトビーのような細身の形状が高速に強い。 逆に幅広の形状は高速に弱く回転しやすい。 ミノーは各自でお気に入りを試してみると良い。 釣師郎の経験としてはリップが小さく細身のミノーが成績が良いようだ。
さてこれが実際フィールド時々見かけるパターンの一つだと思う。 速引き用のルアーで知る人ぞ知る「デビル」だ。
デビルは、当サイトの「釣力年鑑」に写真と概要を記載しているので、見て頂ければ分るだろう。 デビルは銀山湖トローラーが最も良く使うルアーの一つである。 何に似せているかは知らないが、エイの様なボディーは意外に高速引きに強く、激しく円運動をしながらアクションし強力なアピールをする。
釣友に言わせると、デビルはフラット・フィッシュと同じイカの仲間だと言う。 しかしフラット・フィッシュは高速に弱いから、高速に強いデビルと同じ仲間とは思えないと、釣師郎が問うと、フラット・フィッシュはスミイカを模しており、デビルはアオリを模していると珍説を唱える。
デビルは、26グラムの都内じゃまず売っていないビックサイズを使うが、ボディーの両側のエンペラみたいな部分が透明なので、意外と水中では小振りに見える。
銀山湖トローラーは、楽しくなっちゃうけれど、凝り性の方が多い。 つまり「デビル改」なのである。
最初に断っておくけれど、旅団の考えとして、場合によっては詳細なポイント情報は開示しないけれど、テクニックについてはトローラー間の切磋琢磨による改良や情報交換によって、このレイクトローリングと言うマイナー(?)な釣りの技術的レベルの底上げに貢献できるものと思っている。 要するに一人で考えるよりも大勢で、まして一人占めはアカンでぇ。
と言うわけで、釣師郎が銀山湖で教えてもらったデビルの改造方法と使用方法は次の通りだ。
最初から付いているごついトレブルフックをお好みのシングルフックに取り替える。 スプリットリングを嫌うのであれば、ステンレスのワイヤー(針金)で、ボディーの中の芯を自作する。 次にエンペラを除く真中のボディーに、アワビシートを貼り付ける。
さらに凝り性のトローラーは、アワビシートを貼る前にライターの火などでボディーをあぶり、好みのアールが付く様に曲げる。 芯は簡単にボディーから外せるので、アクション派手目か抑え目かの区別で、上下を入れ替えて使用する。
そして速曳き・・・。 それもイメージとしてギャンギャンにて感じだ。 デビル改を降り回して銀山湖を攻めるそうだ。
速曳きの仕掛けで注意する点は、その速さから来る糸縒れ対策である。 また速引きであるためヒットした時の衝撃にそれなりに耐えられる強度・吸収力が必要となってくる。 仕掛けの要所要所にはボールベアリング・スイベルをかました方が望ましいと思うし、ラインの号数もそれなりの強度が必要だ。 ショック切ればかりでは、♪ヤダねったら、ヤダねぇ〜♪だ。
また速引きはラインが浮きやすくなる欠点があるため、例えば通常1色で2メートルから1.5メートルの沈下力が得られにくくなる。 ターゲットが表層近くに浮いていれば都合良いが、どぉんと深いと色数を通常より多くしなければならない。 湖がただ広く空いていれば10色とか13色てのも可能であるが、週末は辛いだろう。
そうなると色数が出せない分、追加の自重で仕掛けを沈めるしかない。 つまりシンカーリリースによるウエイト調整である。 この方法も銀山湖のボート屋さんに教えてもらった。 ただしヒット毎にシンカー(鉛)を湖底に投棄するのは、聖地銀山湖やメッカ中禅寺湖の環境破壊とするエコ・トローラーが多いのも事実である。
また速引きを多用するトローラーは、13色以上巻いていた方が良いと思う。 速引きであると1色あたりの沈下力は通常のそれよりぐっと落ちているため、意図するタナまで沈め込むのに色数がいる。
デットスローであれば1色2メートルとすると、通常兵装10色巻きで水深20メートルまで攻撃できるが、速引き多用で1色1メートルまで浮いているとするならば、通常兵装10色では僅か10メートルまでしか攻められない。 10メートル以深に敵が潜行していた場合は攻撃不可能、つまり釣りになっていないてことである。
芦ノ湖でも初夏になれば、水深10メートル層でも浅過ぎるこシチュエーションもあるのである。
さて、釣師郎が速引きについて初めて聞いたのは、中禅寺湖であった。 第一本命ホンマスであったがまったくカスリもしなかったので、ボートを借りていたレイク岡甚に教えを乞うたところ、こう導きがあった。
「ホンマスは前の船を抜くぐらいの速さが良い」
そして次はサクラ狙いの銀山湖だった。
「デビルをビュンビュン曳く」
またこう書くとレイクトローリングの新しいテクニックとして、速曳きがオールマイティーかと思われるかもしれないが、旅団アカデミーとしては、この裏に対象魚の遊泳力が速曳きの前提になっているのではないかと考えている。
銀山湖のサクラマスにしろ中禅寺湖のホンマスにしろ、その尾ヒレを見たことがあるだろうか? 大きくてピンと伸びた三角の尾ヒレは、見るからに強力な遊泳力を持っていのは間違い無いだろう。
しかも本チャンの天然魚かそれに限りなく近い稚魚放流の完全体だ。 走りはリミッター無しのフルパワー欧州輸出仕様車みたいなもんである。
リアクションバイトを誘う早曳きであろうと、高速迎撃機である彼らから見れば、その速曳きルアーなぞは、楽勝でロックオン可能な対象なのであろう。
時速100キロで巡行しているナナハンに、時速60キロの原チャリは追い着けるでしょうか?
追い着ける訳ありませんよね。 つまりいくらアピール度の高いルアーでの速曳きでも、そのルアーに魚が追い着けない限り、釣れる訳がないのは当たり前である。
先週までどっかの養殖池に居た、ウチワの様に丸い小さな尾ヒレをして、配合飼料で太らされたニジマスが、速曳きのルアーに追い着けるだけの遊泳力を持っているだあろうか? つまり成魚放流が中心の湖では、速曳きはムダな努力に陥りやすいのではないかと考えている。
芦ノ湖では成魚放流がベースであるため、野生に戻って尾ヒレが回復したニジマスが対象でない限り、もっとも釣れるサービスサイズは早曳きテクでは釣りにくいだろう。 ただし逆に言えば雑魚やバケツニジマスは要らんと言った選択的な釣りが可能なのかもしれない。
しかし芦ノ湖にもアマゴと言った対象魚がある。 たしか98年春に3匹ほどまとめて釣ったことがあるが、その時は30センチにも満たない子供だったが、今は50オーバーの強烈な曳きを味あわせてくれる対象魚までに成長している。
他のホームページにも芦ノ湖アマゴの写真が出ているが、ホンマスやサクラと同じく見ごとな尾ヒレをしており、強力な遊泳力を持っている。 あるトローラーの話によると、ヒットした瞬間「これは(いつものニジマスとは)違う!」と区別できるぐらいの曳き、いや「走り」だそうだ。
実際釣師郎も初めてアマゴを釣った時は、これはいつものニジマスとは違うと思った。 ただ引きはブラウンにも似ているが、近くまでに寄って来てから強烈な走りが始まるので、油断は禁物だ。
とは言うものの、レイクトローリング先進国のアメリカでは、Webサイト上の文献を読む限り、「遅曳き」を最優先で推薦している。
The best advice is to troll S−L−O−W−L−Y, the slower the better.
できれば手漕ぎ、それが不可能ならばエレキとしている。 船外機は速過ぎるため極力避けたいそうだ。
大型魚はベイトを得るための最小限のカロリー以上は消費しないように、DNAにプログラムされているため、可能な限りの低速を勧めているわけである。 そのベイトを食して50カロリーなのに、追い掛け回して70カロリー消費するバカなことはしない。
また捕獲に30カロリー消費すれば、差し曳き20カロリーが得られるが、捕獲のエネルギーを節約して25カロリーとすれば、同じベイトから25カロリーが得らる。 つまり魚としては、遅いベイトほど優先してバイトするし、釣師から言えば食いがいいとなるのである。
では徹頭徹尾「遅曳き」か?と言うと、それは否定している。
同じ深さを単純・単調・一定のアクションで引かれているルアーは、変化の無い一定パターンの振動音を水中で発しているため、魚はそれを容易に見切ってしまいヒット率は落ちてしまう。 飽きられるとか、スレが早いとか言うやつだ。
したがって、ルアーが水中で発する振動パターンを変化させるために、速曳きと遅曳きを交互に取り入れるとか、ジグザグ航行によって、ルアーの速度をランダムに変化させるのだ。
そこでキモとなるのが、速曳きの区間ではなく遅曳きの区間で、食わせる、ヒットさせると意識することである。 速曳きは、遅曳き中の「楽なお食事時間」を際出させるための演出区間であるのである。
遅曳きのために速曳きがあるのであって、その逆の速曳きのために遅曳きがあるのではないのである。
本命の遅曳きの船速の約2倍の速さで早曳きをして、突如スロットルをオフ。 速いルアーが速度を落とし始め、予定の遅い速度に達した時が、もっともヒットする瞬間である。
速曳きで誘って遅曳きで食わせる。 キャスチィングでよく言う「食わせるタイミング」を意識的に与えてやるてことだと思う。
追記 :
2002年ごろからハンディーGPSやGPS付き魚探が、急に普及したことから、今までの感覚的な速度が絶対値である共通言語で、トローラー同士が情報交換できるようになった。 まさにデジトロ革命だ。 一般的に言われているが、次のとおりだ。
時速2キロ台で、遅曳き
時速3.5キロで、普通
時速4キロ前半で、ちょい速め
時速5キロで、速曳き(人によってはチョー速曳き)
追記2 :
そしてレイクトローリングのキモ中のキモである「船速と色数とタナの相関関係」が徐々に解明されてきた。 もちろん1メートルの狂いもなくというわけではないし、釣師郎自身が潜って目視したわけではないが、魚探に感の出た水深に合わせて、船速度と色数をセットするとよくヒットする経験から、ドンぴしゃりと当たらずも遠からずのいい線いった精度だと考えている。 ビギナーが何も考えずに、あるいは疑心暗鬼で曳いているよりは、この相関表を元に曳いている方が、より多くの魚を手にすることと信じている。
<船速/色数/水深の相関表>
10yd/kmh 1.5 2.0 2.5 3.5 4.5 5.5
1色 3 3 2 2 1 1
2色 7 5 4 3 2 2
3色 10 8 6 5 4 3
4色 14 10 9 6 5 4
5色 17 13 11 8 6 5
6色 21 16 13 9 7 6
7色 24 18 15 11 9 7
8色 28 21 17 12 10 8
9色 31 23 19 14 11 9
10色 34 26 21 15 12 10
11色 38 28 23 17 13 11
12色 41 31 26 18 15 12
13色 45 34 28 20 16 13
14色 48 36 30 21 17 14
船速と色数の相関関係は「トローラズ・ハンドブック」を参照した。
因みにこれとは別に、時速3.5キロで1メートルの意見もある。
一番納得いくのは、静かで遠浅なワウンドで等深線に沿って曳く。ガリガリて来た水深がBingoてことだ。曳くルアーによって結構違うようで、釣師朗の経験だと1mから1.5mてとこだったかな。
このルアーによってを知っていないと、こうなんだと頑迷に水深を言い張るトローラーがいるので、陥らないように。